都知事選の年代別主要候補別得票数を推定してみた
先日の都知事選の出口調査結果から、極右勢力*1を代表する田母神俊雄候補が若年層で相対的に多数の票を得たという話があり(たとえば朝日新聞の「舛添氏、高齢層から圧倒的な支持 都知事選出口調査分析」という記事)、ネット上でよく観察されるような「若者の右傾化」の広がりを客観的に裏付ける事実として危惧する声があるようです。
それに対する反証の提示として、Twitterでjoe0212tさんという方が得票「率」ではよくわからないので得票「数」をグラフ化。棒の長さは有権者数。改めて若い世代の投票率の低さを知る(灰色部にはその他候補の票も入ってるけど多くはないだろう)。20代の田母神氏への票数も騒がれるほどではないとつぶやきながら、下のようなグラフを提示されていました。
この反証やjoe0212tさんの意見には賛否それぞれの反応があるようですが、私としては、直感的に
「あれ?これ若年層(特に20代)の投票率を低く見積もりすぎてるんじゃね?」
と思ったので、このエントリで検証してみようと思った次第です。
まず年代別有権者数
これについては、jou0212tさんのおっしゃる「年代別の有権者数は、東京都が公開している住民数のうちの日本人数を年代ごとに算出し、近似値としました。」 というのでほぼ妥当でしょう。
実際に数字を挙げると次のようになります。
年代 | 推定有権者数 (人) |
---|---|
20代 | 1,544,886 |
30代 | 2,073,830 |
40代 | 2,054,057 |
50代 | 1,454,188 |
60代 | 1,613,237 |
70代以上 | 1,980,748 |
全体 | 10,720,946 |
日本全体の年代別人口構成と較べると結構偏りがある感じがしますが、それは本題と関係ないのでおいておきます。
この数字は、情報ソースが同じはずなので当然ですが、上のグラフとほぼ一致しているようです。
次に年代別投票率の推測
今回の都知事選の年代別投票率の調査結果はまだ発表されていませんが、都選管のホームページでは過去3回の都知事選の年代別投票率が報告されています。このデータと今回の全体投票率(46.14%)を基に、何らかの仮定によって今回の年代別投票率を外挿することは可能でしょう。*2
(例1)過去3回の全体投票率に対する年代別投票率の比を使って、今回都知事選の年代別投票率を外挿
年代 | 2012 (%) |
比 | 2011 (%) |
比 | 2007 (%) |
比 | 今回 推定 (%) |
比 推定 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
20代 | 44.64 | 0.71 | 39.16 | 0.68 | 33.45 | 0.62 | 30.85 | 0.67 |
30代 | 55.14 | 0.88 | 51.07 | 0.88 | 45.25 | 0.83 | 39.94 | 0.87 |
40代 | 63.34 | 1.01 | 57.79 | 1.00 | 54.71 | 1.01 | 46.42 | 1.01 |
50代 | 70.26 | 1.12 | 64.22 | 1.11 | 62.42 | 1.15 | 52.01 | 1.13 |
60代 | 75.15 | 1.20 | 69.70 | 1.21 | 72.93 | 1.34 | 57.65 | 1.25 |
70代以上 | 67.63 | 1.08 | 64.65 | 1.12 | 66.15 | 1.22 | 52.54 | 1.14 |
全体 | 62.60 | 57.80 | 54.35 | 46.14 |
(例2)過去3回の全体投票率に対する年代別投票率の差を使って、今回都知事選の年代別投票率を外挿
年代 | 2012 (%) |
差 | 2011 (%) |
差 | 2007 (%) |
差 | 今回 推定 (%) |
差 推定 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
20代 | 44.64 | 17.96 | 39.16 | 18.64 | 33.45 | 20.90 | 26.97 | 19.17 |
30代 | 55.14 | 7.46 | 51.07 | 6.73 | 45.25 | 9.10 | 38.38 | 7.76 |
40代 | 63.34 | -0.74 | 57.79 | 0.01 | 54.71 | -0.36 | 46.50 | -0.36 |
50代 | 70.26 | -7.66 | 64.22 | -6.42 | 62.42 | -8.07 | 53.52 | -7.38 |
60代 | 75.15 | -12.55 | 69.70 | -11.90 | 72.93 | -18.58 | 60.48 | -14.34 |
70代以上 | 67.63 | -5.03 | 64.65 | -6.85 | 66.15 | -11.80 | 54.03 | -7.89 |
全体 | 62.60 | 57.80 | 54.35 | 46.14 |
*3これらをさきほどの年代別有権者数に当てはめて年代別の推定投票者数を出すと、
(年代別推定投票率を例1によった場合)
年代 | 推定有権者数 (人) |
推定 投票 率(%) |
推定投票 者数(人) |
---|---|---|---|
20代 | 1,544,886 | 30.85 | 476,648 |
30代 | 2,073,830 | 39.94 | 828,314 |
40代 | 2,054,057 | 46.42 | 953,514 |
50代 | 1,454,188 | 52.01 | 756,380 |
60代 | 1,613,237 | 57.65 | 929,993 |
70代以上 | 1,980,748 | 52.54 | 1,040,639 |
全体 | 10,720,946 | 46.50 | 4,985,488 |
(年代別推定投票率を例2によった場合)
年代 | 推定有権者数 (人) |
推定 投票 率(%) |
推定投票 者数(人) |
---|---|---|---|
20代 | 1,544,886 | 26.97 | 416,707 |
30代 | 2,073,830 | 38.38 | 795,867 |
40代 | 2,054,057 | 46.50 | 955,205 |
50代 | 1,454,188 | 53.52 | 778,330 |
60代 | 1,613,237 | 60.48 | 975,740 |
70代以上 | 1,980,748 | 54.03 | 1,070,264 |
全体 | 10,720,946 | 46.56 | 4,992,113 |
主要4候補の年代別得票数を推測
あとは冒頭の朝日新聞の出口調査データに掛け合わせるだけで完成です。このようになりました。*5
(例1によった場合(投票率低下の年代別構成要素を、全年代比較的均等とみた場合))
年代 | 田母神氏 | 舛添氏 | 細川氏 | 宇都宮氏 |
---|---|---|---|---|
20代 | 114,395 | 171,593 | 52,431 | 90,563 |
30代 | 140,813 | 314,759 | 124,247 | 173,946 |
40代 | 133,492 | 381,406 | 200,238 | 171,633 |
50代 | 83,202 | 332,807 | 158,840 | 151,276 |
60代 | 65,099 | 437,097 | 213,898 | 204,598 |
70代以上 | 62,438 | 572,352 | 187,315 | 208,128 |
全体 | 599,440 | 2,210,014 | 936,970 | 1,000,144 |
(例2によった場合(投票率低下の年代別構成要素を、比較的若年層に多めに振った場合))
年代 | 田母神氏 | 舛添氏 | 細川氏 | 宇都宮氏 |
---|---|---|---|---|
20代 | 100,010 | 150,015 | 45,838 | 79,174 |
30代 | 135,297 | 302,429 | 119,380 | 167,132 |
40代 | 133,729 | 382,082 | 200,593 | 171,937 |
50代 | 85,616 | 342,465 | 163,449 | 155,666 |
60代 | 68,302 | 458,598 | 224,420 | 214,663 |
70代以上 | 64,216 | 588,645 | 192,648 | 214,053 |
全体 | 587,170 | 2,224,234 | 946,328 | 1,002,625 |
もともとサンプル調査である出口調査のデータを使った上、このエントリ上で年代別投票率などの推定を重ねて出した数字ですので当然実際の得票数とは一致しないわけですが、といって大きな乖離がある訳でもありません。年代別にだいたいこれぐらいの極右、保守、リベラル、左翼の有権者がいるのだなぁ、などと思いながら眺めるにはこんなもので充分かなぁと思ってアップしてみます。
えっ、この推定結果を上で引用したグラフと見比べられるようにちゃんとグラフにしろって?面倒くさいので誰かやってください。
(追記)
2014年3月31日に東京都選挙管理委員会が発表した「年代別投票調査結果の概要」によると、実際の年代別投票率は次のとおりでした。
年代 | 実際の 投票率(%) |
例1の 推定(%) |
例2の 推定(%) |
---|---|---|---|
20代 | 27.92 | 30.85 | 26.97 |
30代 | 39.83 | 39.94 | 38.38 |
40代 | 45.74 | 46.42 | 46.50 |
50代 | 52.03 | 52.01 | 53.52 |
60代 | 59.31 | 57.65 | 60.48 |
70代以上 | 51.66 | 52.54 | 54.03 |
全体 | 46.14 | 46.14 | 46.14 |
例1(過去3回の都知事選の全体投票率と年代別投票率の「比」の平均)と例2(同じく「差」の平均)、どちらの推測値がより実際の値に近かったかというと、まず例2(「差」の平均)は、投票率の相対的に高い年代(50代以上)で投票率を実際の値より高く見積もり、投票率の相対的に低い年代(30代以下)では逆に実際より低く見積もる結果となりました。次に例1(「比」の平均)は、30代〜50代でほぼ実際の値に近い数字を推測することができていましたが、20代の投票率は過大に、逆に60代以上は過小に見積もる結果となりました。
その点からは、2014年都知事選での年代別の投票行動は、過去3回の傾向から単純に外挿できるものではなかったといえそうです。
年代別にみると、30代は過去の傾向よりはやや健闘、60代は過去の傾向どおり、20代、40代、50代、70代はやや動きが鈍かったといえそうです。といっても、どの年代も1〜3ポイント程度の動きでしかありませんが。
*1:まぁ、近年の日本の保守勢力は欧米でいえばおおむね極右勢力に相当するという話もありますが
*2:ここではごく簡単な(統計学的な妥当性にとらわれない)やり方で外挿してますが、多数回の選挙のデータなどから全体投票率の増減と年代別投票率の増減に固有の傾向性が確認できるのであれば、その傾向性を反映できるやり方をとる必要があるでしょう。
*3:「今回推定(%)」の列に入っている数字は、例1の場合今回の全体投票率に過去3回の比の平均を掛け合わせたもの、例?の場合今回の全体投票率から過去3回の差の平均を引いたものです。ただし、「全体」の行に入っているのは実際の全体投票率です。
*4:ここで「推定投票率」の「全体」の欄に入っているのは、年代別の推定投票者数を足し合わせた合計を全体の推定有権者数で割ったパーセンテージです。
*5:他の表もそうですが、Excelで計算して端数処理をしないまま貼りつけているため、年代別を足しても合計の数字とは一致しません